複雑性PTSDってなに?トラウマとPTSDはどうちがうの?
トラウマとは?
「半年前の失恋がトラウマになっちゃって、いまだに彼氏つくる気になれないんだよねー。」
「この前上司に怒られたのがトラウマで、あの人の顔見るたびに憂鬱なんだよねー。」
多くの方はこんな風に、トラウマという言葉を「嫌なできごとが後々に影響すること」というニュアンスで使っているかと思います。
でも、医学用語的にいうと、トラウマとは心的外傷のこと。外的な要因によって生じた、心の傷を指します。
大人になってからトラウマを負うというのは、かなりの苦痛を味わうできごとがあった場合に限られ、日常生活で誰もが体験しうる失恋や叱責などで、新たにトラウマができるというのはなかなか考えにくいです。
もし、失恋や叱責によって大きく取り乱してしまうのであれば、それは新規のトラウマではなく「トラウマの再体験」だと思われます。(後述)
トラウマの種類
トラウマは、大きく分けて2つに分類できます。
「単回性トラウマ」と「複雑性トラウマ」です。
それぞれについて説明します。
単回性トラウマ(I型トラウマ):
こちらはいわゆる「トラウマ」です。
複雑性トラウマ(Complex Trauma)と区別するために「単回性トラウマ」(single event trauma)と呼ぶことがあります。
たとえば、戦争、災害、事件、事故、レイプなど。
あるひとつの大きな脅威的できごとがきっかけで、心に負う傷のことです。
このトラウマは、わかりやすく本人も認知しやすいものです。
たとえるなら、「雷に打たれるように」できる心の傷といえるでしょう。

複雑性トラウマ (II型トラウマ):
一方、複雑性トラウマは、単回性トラウマのように一度の衝撃でできるものではなく、 長期間かつ反復的なダメージで心に傷を負うことをです。
執拗ないじめや誹謗中傷、監禁、虐待・ネグレクトなどにより、長期的にジワジワと心をむしばんでいくようなダメージです。
今回話題になった方は、こちらのトラウマが原因でPTSDを発症されました。
分類には諸説ありますが、複雑性トラウマには複数の種類があり、その中でも、幼少期に親や身近な養育者から繰り返し行われる受け入れがたい言動によってできるトラウマを「発達性トラウマ」といいます。(複雑性トラウマと発達性トラウマを分けて分類する文献もあります。)
直接的な身体的虐待やネグレクトだけでなく、「男の子が良かった」「お姉ちゃんはできるのに、、、」「のろまだね」など、その人の存在や人格を否定するような言葉をたびたび浴びせられていた場合や、夫婦喧嘩、嫁姑バトルなどの家庭内不和、金銭的問題、病気、その他子どもにとってあまり良くない環境で育った場合なども、心に傷を重ね、発達性トラウマになる場合があります。
特に生まれつき繊細な気質を持ったわたしたち(HSPなど)は、ひといちばい敏感で親の顔色の変化を察したり、何気ない言葉に傷つきやすいなどの特徴があるため、家庭内にさして大きな問題がない場合にも、親や周りの大人のささいな言動から心に傷を負い続けている可能性は十分にあり得ます。(隠れアダルトチルドレン・HSPAC)
単回性トラウマが「雷に打たれるように」できる心の傷であるとすれば、
こちらの複雑性トラウマは、「雪が降り積もるように」ジワジワと重ねる心の傷と表現できます。

PTSDとは?
PTSDは、トラウマと似て非なるものです。
PTSDは、日本語で「心的外傷後ストレス障害」といいます。英語の正式名称は、「Post Traumatic Stress Disorder」です。
「障害(Disorder)」という名がついているとおり、こちらは、単なる医学用語ではなく診断名でもあります。
単にトラウマ的体験をしただけでは診断が下りず、
・悪夢やフラッシュバック・解離などの症状が1カ月以上続いている。
・日常生活に大きな支障をきたしている。
など、医師が総合的に判断し診断をします。(詳しくは、MSD マニュアルをご参照ください。)
PTSDと診断されたら、病院で精神療法や薬物療法(抗うつ薬)などの治療を受けることが可能になります。
トラウマとの違いは、心の傷を負ったことにより、その後に障害と呼ぶ諸症状を引き起こし、医師の診断を受けているかどうかということです。
今回話題になった方は、長年のストレスにより複雑性トラウマを負い、その結果、お医者さまの診断(複雑性PTSD)がついたということですね。
PTSDと複雑性PTSDのちがい
そして、PTSDと複雑性PTSDのちがいは、その障害の元になるトラウマが、単回性トラウマであるか複雑性トラウマであるかのちがいです。
単回性トラウマであれば、PTSD(心的外傷後ストレス障害)となり、複雑性トラウマであれば、複雑性PTSDとなります。
少し短絡的なようですが、まとめるならこんな感じです。
体験 | 医師の診断なし | 医師の診断あり |
ひとつのできごと | 単回性トラウマ | 単回性PTSD |
複数のできごと | 複雑性トラウマ | 複雑性PTSD |
わたしのクライアントさんのほとんどが、複数の出来事からくる複雑性トラウマ(特に幼少期の体験による発達性トラウマ)に苦しめられているアダルトチルドレンです。
- 人の目が気になる
- 気を遣いすぎて疲れる
- 悪口を言われてるのではないかと不安になる
- 自分が何かいけないことをしたのではないかと心配になる
- 威圧的な人に委縮してしまう
- 人の輪の中にいても孤独感を感じる
PTSDと診断を受けないまでも、不安や緊張感が強く、日常生活、特に人間関係において息苦しさを感じています。
しかしながら、そのことを複雑性トラウマが原因だと自覚しているのはごくごく一部の方です。
多くの人は、今の生きづらさが幼少期のできごとに結びついているとは思いもしないのです。
でも、そこに気づけない限り、トラウマの大元がわからないため、もぐらたたきのように表面上のお悩みに対処し続けることになり、何度でも同じような体験を繰り返してしまいます。
トラウマの再体験
この記事のはじめの方に、
「失恋や叱責によって大きく取り乱してしまうのであれば、それは新規のトラウマではなく「トラウマの再体験」だと思われます。」と書きました。
トラウマの再体験とは、心の傷を負ったときの感情を再体験することです。
再体験といっても、感情の再体験であって、できごとそのものの再体験ではありません。
たとえば、幼少期に家庭内で疎外感を感じていた人は、大人になってからも、上司が別の部下ばかりをかわいがる、友だちの輪にうまく馴染めない、などの疎外感を感じる体験を繰り返すことになります。
また、幼少期に親に叱責ばかりされて恐怖を感じていた人は、大人になってからも、仕事の失敗で叱責される、怒りっぽいパートナーばかりを選んでしまう、など恐怖感を感じる体験を繰り返すことになります。
あなたが抱えているトラウマは、手放すまで何度でもあなたに同じ体験を連れてきます。
トラウマを手放すには、インナーチャイルドケアが必要ですので、良かったら講座やカウンセリングにお越しくださいね。